オーストラリア出身のブリュワーに聞く
「京都の麦芽粕の現状」どう思いますか?
Kyoto Beer Lab(以下KBL)の立ち上げから関わっている、ヘッドブリュワーのトム・エインズワースさん。もともと大のビール好きで、母国でもホームブリューイングを行っていたトムさんにとって、麦芽粕は以前からずっと身近にあるものです。
そんなトムさんからは、「京都の麦芽粕の現状」はどのように見えているのでしょうか。クラフトビール文化がさかんなオーストラリアと日本の違いや、今ひとりのブリュワーとして感じている問題意識や取り組みについて、トムさんにお話をうかがいました。
クラフトビール文化がさかんなオーストラリア
ートムさんは、オーストラリアにいた時からビールを造っていたんですか?
うん。自家製ビールをいろいろ造って研究してたよ。
ーオーストラリアでは、ホームブリューイングって珍しくないんですか?
そうだね。オーストラリアでは普通のことだから、やってる人はやってる。ブリュワリーもクラフトビールの専門店もいっぱいあるし、普通の居酒屋でもいつも6種類くらい置いてあるし。だからこっちに来たとき、「日本ではクラフトビールってあんまり盛り上がってないんだな」って思った。
ー日本よりずっとクラフトビール文化がさかんなんですね。それで来日されて、すぐブリュワーに?
いや、日本に来たばかりの頃は英語教師をしていたんだけど、「こっちでも本格的にビールを作りたいな」と思っていたところに、ヒロキさん(KBL店長)と村岸さん(KBLオーナー)に出会って。話をするうちに「一緒にやってこうぜ」という話になって、KBLのスタートメンバーになった感じ。そこからブリュワーとして仕事を始めたよ。
麦芽粕がほとんど捨てられる事実がショックだった
ートムさんがオーストラリアにいた頃は、麦芽粕ってどういうふうに処理していたんですか?
向こうでは基本、養豚場とか羊牧場にエサとして引き取ってもらってたね。トラックで持っていってもらう。だからゴミにならない。
ーへえー! それが当たり前なんですね。
そう。オーストラリアって日本よりもいっぱいブリュワリーがあるから、すごい量の麦芽粕が出るんだけど、それらぜーんぶ持って行ってもらってる。それが当たり前だったから、京都でこの店をやり始めたときびっくりしたよ。麦芽粕を持って行ってくれる人がいないから、どうしようかと。
ーそれはカルチャーショックですよね。
最初いろんな農家さんとか養豚場さんとか調べて声をかけてみて、「欲しい」という意見ももらったりしたんだけど、みんな場所が遠かったんだよね。店の前の道も細くて、トラックで来てもらえないし、こっちからも持っていけないし。
それでいろんなブリュワリーに麦芽粕をどうしてるか聞いてみたんだけど、京都市内のブリュワリーはほとんどゴミにしているって言ってた。やっぱり地域によってちがうよね。田舎だと、麦芽粕を使ってくれるところがいっぱいあるもん。滋賀のブリュワリーでは、500リットル容器に入った麦芽粕を全部養豚場に持っていくんだって。そういうのできたら最高なんだけど……。
ー確かに、周りにそういう場所がないと難しいですよね。
僕はもともと環境のことを考えて、プラスチックとかビニルとか使わないようにしてるの。マイ箸もいつも持ち歩いているし。それなのに、麦芽粕を捨てるって何? って感じ。しかも、捨てるためにビニル袋に入れないといけないじゃん。そんなんでわざわざ使いたくないのに、馬鹿らしいなって思ってショックだった。
そういう現状が全然いいと思えない。だから、この「麦芽粕再利用プロジェクト」、すごくいいと思うよ。捨ててる麦芽粕を、違う人や違うところで使ってもらえたらすごくいいよね。
みんなのそれぞれの趣味に麦芽粕を使ってほしい
ー麦芽粕は一回あたりどれくらい出るんですか?
醸造するごとに50キロから150キロくらいかな。たまにそれを、九条のモゼイクホステルさんがもらいに来てくれるよ。あそこはファームをやっているから、それでできたお米を持ってきてくれたりして。でもそういうふうに引き取ってもらうのは少なくて、大部分は捨ててるね。
ーもっと多くの人に引き取りにきてもらえるといいですよね。
そう。それで昨年末から、Facebookで『KBL 麦芽粕活用グループ』っていうグループを作ったの。そこで「麦芽粕が出ますよ」って情報を発信するようにしたんだけど、それを始めたらかなり反応があってすごく嬉しかった。常連さんや友達も来てくれたんだけど、知らない人も来てくれて。新しいつながりもできていいなと思ったよ。
ーそれはよかったです。みなさん、麦芽粕を持ち帰ってどのように使っているんでしょう?
畑に撒くって友達もいるし、ほかの友達はグラノーラを作ってるね。グラノーラは食べさせてもらったらおいしかったから、ここで販売もしてる。あとケーキを作って持ってきてくれた人もいて、それもめちゃおいしかった。そういうふうに麦芽粕で作ったものを、KBLに持ってきてもらえるのは嬉しいね。僕も作ってみたいけど、うちはキッチンが狭いからな。
ー麦芽粕をもらえるって知らなかった人もいると思うから、発信することで使ってくれる人が増えるといいですね。
今はKBLで無料で配ってるから、ぜひ来てほしいね。みんなそれぞれ趣味があると思うから、それに合わせて使ってもらえたら嬉しいな。料理が好きな人は麦芽粕で何か作ってみたり、畑やっている人は肥料にしたり。
僕はビールを造るのが仕事だから、これからも麦芽粕をどんどん出していくけれど(笑)、その情報を発信していろんな人に使ってもらえたらいいなと思ってるよ。
麦芽粕についてだけではなく、日々環境問題に対して意識的なトムさん。インタビュー後の雑談でも、「どうして日本はあんなにプラスチック容器を使うの?」「どうしてあんなに過剰包装するの?」など、こちらが逆に尋ねられてしまう場面もありました。
オーストラリアと日本では、こういった問題に対する意識や危機感の度合いが大きく異なるのかもしれません。もしかしたら、それが麦芽粕の処理の仕方にも表れているのではないでしょうか。
また、日本では製造免許がないとビールが造れないので、基本的にビールは「造る」ものではなく「買う」ものです。だから多くの人は、ビールを「造る」中で何が生まれ、何が捨てられているのか知りません。だけどこうして作り手から発信がされれば、作り手と買い手が同じ問題を共有して、互いに知恵を出し合うことができる。そんなことを、トムさんのインタビューから学びました。
もともとクラフトビール文化がさかんな国だからこそ、学ぶべきところはいっぱいあるはず。周辺地域や産業が異なるので真似できないところもあるとは思いますが、トムさんの「麦芽粕を捨てるって何? って感じ」という違和感は、私たちも持っておくべきだろうなと感じたインタビューでした。
KBLの麦芽粕情報はこちらから! ぜひチェックしてみてください。
『KBL 麦芽粕活用グループ』
(インタビュー:土門蘭、撮影:古都グラファー 福本一海)