麦芽粕を利用し、楽しく味わう。
「麦芽を食べてビールを飲む日」
イベントレポート
クラフトビールを作るときに出る、麦芽粕。200リットルの仕込みに対して、約60キロあたりの麦芽粕が出る。
肥料や飼料として使うことも可能だが、すべてを使うのはなかなか難しい。廃棄すると産業廃棄物となり、お金もかかるし、環境にも悪影響を及ぼすことにも成りかねない。
そこで料理に麦芽粕を利用し、おいしく消費するイベント「麦芽を食べてビールを飲む日」が、2021年12月18日「kyoto beer lab」で開催された。
この日は、主にビールの仕込みに使った麦芽を乾燥・製粉してつくった「スーパーフラワー」を用いた料理がいくつも提供された。小麦粉と利用方法も似ており、パンケーキやキッシュといったメニューに利用することができる。
今回この麦芽粕を使って新たなメニューを生み出したのは、5人の料理人。いずれも麦芽粕ならではの風味や食感を生かすよう、考え抜かれたフードばかりだ。イベント参加者はめいめいに、8タップのビールとのペアリングを楽しんでいた。ここからは、それぞれの味わいや楽しみ方をお伝えする。
丹波高原豚肉と鶏白湯のまぜそば
まず最初にいただいたのは、「麺処虵の目屋(めんどころじゃのめや)」の松本さんが手掛けた「丹波高原豚肉と鶏白湯のまぜそば」。
麺には、小麦とスーパーフラワーを使用しているそう。そのため、麺はやや褐色がかっていてそばにも似た色合い。平たい麺が鶏白湯のスープにしっかり絡む。丹波高原豚肉を使った、とろとろのチャーシューと一緒にいただきます。
空っぽの胃に鶏白湯スープの味わいが染み渡る。コクのあるスープの味わいがなくならないうちに、低アルコールビール「生き返りベルリーナーヴァイツェ(シロップなし)」をゴクリ。たまらないですね、この瞬間。残ったスープに、特製スパイスのエッセンスを混ぜて味変を楽しむことも可能。最後の一滴まで楽しむことができる、遊び心満載のまぜそばだ。
スーパーフラワーを使用すると麺に粒子が残ってしまうため、練り上げ時間を長くするなどの工夫を行ったそう。今回は麺の質感を重視して、スーパーフラワーの含有量は少なめにしたが、将来的にはできるだけ多く使用していきたいと松本さんは意気込む。今後、スーパーフラワーを使ったまぜそばがどんな味わいに進化するのだろうか。次回いただく時を、楽しみにしたい。
ヌガー/無農薬ブルーベリーマフィン
ハンバーガーショップ「58DINER」の森口さんが手掛けたのは、ヌガーとマフィン。58DINERでは、「繋がりが見える生産者と行動し、消費に責任を持つ」というモットーを掲げており、ハンバーガーのバンズにスーパーフラワーを使用するなど、日頃から麦芽粕に対して高い関心を寄せている。
1つ目は、フランスのお菓子「ヌガー」。砂糖と水飴を低温で煮詰め、通常はアーモンドなどのナッツ類やドライフルーツなどを混ぜ、冷し固めて作る。スニッカーズのような、歯に粘りつくような食感が特徴のお菓子。
そこに今回は麦芽粕を加えて、森口さんはあらたなヌガーを作った。マイナスとも捉えられがちな、口に残るつぶつぶとした麦芽粕の食感がほど良いアクセントになっている。一口かじると、ヌガーの甘さと麦芽の香ばしさが口いっぱいに広がる。合わせたのは「ほうじ茶スタウト」。スタウトの苦味とヌガーの風味がマッチして、「これこれ!」と思わずつぶやいてしまう。
無農薬のブルーベリーを使ったマフィンも絶品。ポピーシードを使ったマフィンと食感は少し似ているが、それよりもしっかりとした食感。プチプチ感が食べていて楽しい。マフィンのしっとりとした生地と相まって、おいしさが倍増する。こちらも残りのほうじ茶スタウトと合わせて、いただいた。コーヒーよりスタウトの方が合うような気がしたのは、麦芽粕を使っているせいだろうか。
森口さんは麦芽粕を消費するためだけでなく、お菓子として深みを出すために、麦芽粕を使っていきたいと考えている。現在も麦芽粕を加えることで、どんなアクセントを料理に加えてくれるのか、試行錯誤しながら最適解を探している。それも「麦芽粕を一つの素材として、食の新しい可能性を広げたい」という思いから。森口さんの挑戦はまだまだ続く。
サルサチップス/コーンフリッター
私の友人が特に絶賛していたのが、「サルサチップスとコーンフリッター」。これらを作ったのは、Kyoto Beer Lab.のスタッフ・いさおさん。
なんとサルサチップスは、麦芽粕を製粉せずにそのまま使用しているそう。さらに、ベースになるコーンマサラに対して麦芽粕は3割も使用していると聞いてびっくり。
麦芽粕は麦汁を含んでいるため、長く放置してしまうとかびてしまう。その扱いにくさも課題の1つ。素早く乾燥させて粉末しなくてはならないため、使用する用途が限られてしまう。いさおさんもどうすれば手間をかけずにおいしい料理になるか考え、たどり着いたのがこのサルサチップスだったそう。
麦芽粕をそのまま使っているが、麦芽粕の食感とサルサチップスが驚くほどマッチしている。外側はカリカリだが、通常の生地よりももっちりしている。麦芽粕を使用しているからだろうか、脂っこくなくてヘルシーな味わいだ。そのままでも充分だが、付属のトマトソースをつけるとよりおいしい。ここはHazyながらもしっかり苦味を感じる「釈迦岳DDHマウンテンIPA」と合わせて大正解。
コーンの粒がごろごろ入っている「コーンフリッター」は、ビーガンレストランのメニューにヒントを得て制作したそうだ。麦汁を生地に入れ、香ばしさをプラスしている。ヨーグルト、玉ねぎ、デルが入った爽やかな酸味のソースに合わせていただくと、また違った味わいに。
ブラウニー/クッキー(オートミール/ピーナッツバター)、グラノーラ
最後に紹介するのは、Kyoto Beer Lab.のブリュワーであるニックが作った「ブラウニー、クッキー、グラーノーラ」の3点だ。
グラノーラは、Kyoto Beer Lab.の定番メニューとして人気の高い商品。海外のブリュワリーでもポピュラーで、手間はかかるが家庭でも気軽に作ることができる。
スーパーフラワー3カップに対して、オートミール、ミックスナッツ、黒豆などをいれ、シナモン、ナツメグ、塩、ココナッツオイル、蜂蜜で味付け。噛めば噛むほど麦芽粕に染み込んだココナッツオイルや蜂蜜がじゅわっと口いっぱいに広がる。ハイアルコールを長く楽しむときのアテにも最適だ。
グラノーラのレシピは下記でも公開しているので、興味のある方はぜひご自身でも作ってみてほしい。
私が最も気に入ったのはブラウニー。麦芽粕を使用しているとは思えないほどしっとりしていて、ブラウニーというよりもガトーショコラのような質感。完成形になるまでに、10回も試行錯誤を繰り返したそうだ。ほろ苦い70%カカオにバター、クルミなどを合わせて作られたコクのある味わい。ほのかに感じる麦芽の風味もアクセントになっていて、おいしい。
2種類のクッキーも女性を中心に人気が高かった。こちらは小麦粉に対してスーパーフラワーを半分使用。麦芽の風味をしっかりと感じられる。味はレーズンがアクセントになって程よい甘さの「オートミールレーズンクッキー」と、しっとりとしたピーナッツバターの味がクセになる「ピーナッツバター」の2種類。海外のブリュワリーでは、ピーナッツバターのビールとクッキーをペアリングしていただくこともあるそう。
久しぶりにフードもビールも楽しめるイベントということもあり、会場にはたくさんの人が訪れていた。あちこちで「おいしい!」「麦芽粕が使われてるとは思えない」というような声が聞こえた。本当にどれもおいしく、そしてクラフトビールとの相性も抜群だった。
廃棄される麦芽粕がこのようにおいしく、楽しく再利用されているイベントに参加できてとても有意義な時間となった。クラフトビールを楽しむものとして、ぜひあなたも麦芽粕の再利用について、すこし思いを巡らせてもらえたならうれしく思う。
今後は麦芽粕を製粉したスーパーフラワーを製造し、家庭や飲食店で使ってもらえるようにしていく予定とのこと。またスーパーフラワーを使用したレシピも公開していくということなので、楽しみに待ちたい。
※当イベントは感染防止対策を徹底した上で、感染に十分注意しながら行っています。
<麦芽粕を使用してみたい方>
麦芽粕は料理や植物の肥料などに活用することができます。利用してみたいと思った方は下記へアクセスしてください。Kyoto Beer Lab.にてビール仕込み後の麦芽粕を無料配布しています。
▼麦芽粕活用グループ
https://www.facebook.com/groups/999341447142950
※招待制になっていますので、参加希望の方は当サイトからお問い合わせください。
(テキスト:三上由香利、撮影:古都グラファー 福本一海)